SSブログ

捻じ曲げられた事実

福島県の双葉病院から患者さんが搬送される途中・または搬送先で
21名が亡くなったというニュースをやっている。

NHKでも院長に電話インタビューを行い、「うちの職員もクタクタで、ほかに
仕方がなかった」という内容の報道をしていた。

どういう年齢層で、疾患群がどのようなものであるかも明かさず、
ただ「置き去りにした」「付き添わなかったから死亡した」というのは
あまりに無理がないか・・・? 100名以上の入院患者に院長含めて4名の
スタッフって、もうどうしようもない。しかもこの100名がけっこう元気な
(筋骨格系の怪我など)だったらどうにかなる・・・ ならない。ならないけど
非常事態ならどうにかするしかない。

おかしいな、と思って調べてみた。なんでそんなに死亡者が出たのか?
置き去りなんていくらなんでも普通はしないし、どういう事態がおきていたのか?
年齢は?基礎体力はどの程度予備能力があったのか?疾患は?

・・・ 報道にはちゃんと出ていなかった。
「寝たきりと車椅子の高齢者が」100名以上って尋常じゃない。
双葉病院の届けは精神病床350床となっているから、
残されたほとんどが認知機能に障害があった状態と考えられる。

認知症があれば歩き出して転んだりご飯を認知しなくてまったく口を開けなかったり
意思疎通が困難なことが予想される。でも、人や時間があれば観察をするとか
食べる援助をする手段とか、いろいろ考えることができるけど、
この非常時にそんな時間はない。ご飯を食べないことで栄養状態が悪くなっても
物資に限界があるから点滴もできなくなる。

交代要員も無く物資も無く、でも患者さんはもちろん生きているから、
食事だけではなく排泄の介助もしなくてはいけない。

これを4名で・・・ 医師は医師の役割があるから、ほか残った人数、って
MAX3名のスタッフ、もしかして1名か2名のスタッフだけで。
赤ちゃんと違って大人のウンチの量って半端なく多い。
「よ・・・よかったですね・・・」としか言いようがないほど多くて臭い。
ウンチの話なんて嫌ね~。とは言えない。
これは生きているなら仕方のない、避けて通れない話だ。生きてるのだから。


私なら毎日100名以上のおむつ交換だけでも発狂して普通に逃げ出したくなる。

けど、この病院の人たちは逃げなかった。
ちゃんと一緒にいたのだ。報道が誤っているのだ。

混乱した現場で連絡の行き違いがあり、救助は完了したと報告されていたから
救援が来るまで待った。やっと救助がきたものの、一度で運びきれなかったので
スタッフは病院に戻ってきたが、自衛隊の二度目の救援がなぜかこなかった。
一緒に居た警察の指導で退避を余儀なくされ、その後の二度目の救援の際に
スタッフがいなかった。ということが「置き去りにした」という
捻じ曲げられた報道になったのである。

激しい怒りを感じる。

報道ではインタビューから得た一言しか、院長の声を流さなかった。
さも、「クタクタだったから(置き去りにしちゃったんです。)仕方がなかったんです。」
という印象を植えつけるものだった。

一般市民が見たら「うえーひどい」「人の心がないのか」と思うだろう。

さらに踏み込んで言うと、災害時には人命もトリアージが必要なのだ。
要は、「できるだけ多くの人数を助ける」ために、人や資源をどこにつぎ込むか、ということだ。
今回の場合はこれもある。書いてしまっていいかわからないけど。
死亡しても仕方がない、とは決して言えないが、効率的なことも考えないといけないのだ。
今回のように時間に制限があれば全員を助けるのは無理であり、その中で
「より多くの人間を助ける」必要に迫られる。

災害時には対象となる人間が爆発的に増える。患者や家族に「申し訳ありません」と断って
他の人命救助を選択しなくてはいけない、苦しい決断もあるのだ。
このことは、救助に当たった側にもトラウマとなり、それが最善の決断であったとしても
「‘見捨てた’ことに変わりはない」と自らを責め続けることになる。
命の重さをわかっているからこそ、しなくてはいけない決断なのだ。


人は生きていて当然、ではない。


今回は、それぞれが「結果的に仕方がなかった」と院長は言ったのだろう。
本当に、いろんな要因があったと思う。置き去りにしようと意図したわけでもないし
できる限りのことをした。結局、自衛隊は搬送した。でもそのときに、体力が尽きた
人もいた。それを仕方が無いといわずになんと言えるのか。

報道ではまったくそのことに触れない。報道ってなんなんだ。洗脳なのか。

正しい評価をされなかったらただでさえ不快だしやる気はなくなる。
それを、全国ネットで局に都合よく編集し、捻じ曲げた報道をするってなんなんだ。

被災しながら働いているスタッフの精神的な余裕なんてないはずだ。
それを誤った報道で痛めつけるってなんなんだ。
こんな程度の取材しかできないのか。
都合よくタイトルをつけて興味を引けばいいのか。
テロに等しい。

驚くことに、NHK以外にも、朝日も毎日も時事通信も、この報道をしていた。
毎日や時事通信はネット上の記事を削除しているけど、訂正はしていない。
一面で謝れ。

「もう嫌だ、ばかばかしい!」
一生懸命働いている人を、そういう気持ちにさせることが報道なのか。
こんな誹謗中傷は許せない。

初めてBPOに通報をした。被災して避難している状態で、
この病院のスタッフに「事実は違うんです」と訴え出る機会がないのを
良いことに、名誉毀損も甚だしい。
ついでに、瓦礫をただレポートして警報サイレンが鳴ったら救援活動中だった
自衛隊に助けてもらいながら、撮影しながら移動したNHK、最高にジャマで
不愉快だった、あれは報道でもなんでもない。ということもキッチリ付け加えた。


この病院のスタッフは今どんな気持ちでいることだろう。
情けなくて悔しいだろうし、荒むだろう。
やっぱり、「こんな仕事、選ぶんじゃなかったな。」と思うだろうか。

迷ったり悩んだりしながら、元気に帰っていく人を見て「よーし、よかったな!」 
と思ったり、治療の甲斐なく亡くなった人にも「この人にこれができて良かった。」
「もっとこうできればよかったな。」と思ったり、
しばらくぶりに会った家族に「あなたが担当で良かった。」と言われたら、
頑張って続けてきて良かった、と思ったり、気持ちが通い合ったことを
良かった、と思ったり。派手ではないが、それぞれいろんな「良かった」がある。

これは医療関係に限らずどんな仕事においても自分の価値を見出せる、
人が成長する機会があり、言葉にしたとたんに薄っぺらくなるけど、
それぞれ大事に育て続けているものがあると思う。

それを心ない、悪意に満ちたやつらに踏みにじられ、全国ネットで
名前を晒され、どんなに悔しいことだろうか。
「この悔しさをバネに」なんて綺麗事は言えない。
「くだらないテレビなんか見る価値ない」と言いたい。


現地の人はみんな必死で、みんな同じ立場だ。
ご飯を作って配って目立つポジションで「ありがとう」と言われる人、
必死に高齢者を支援して排泄の世話をしているけど下の話だから目立たない人。

でも、これから続々志望者が出てくるであろうボランティアの人間が
「やりたい」と選ぶのは前者で、「そういう仕事はしたくない」と断るのは後者で
腐れ報道陣が喜んで美談として取り上げるのは必ず前者だ。


最近久しぶりに腹の立つ出来事だ。



nice!(3)  コメント(6)  トラックバック(1) 

nice! 3

コメント 6

しょうじ

報道機関は真実を伝えることよりも、視聴者・読者の気をどうやってひくか、それしか考えてないように思えます。
緊急特番の視聴率を稼いで、なんの意味があるのか?私にはまったくわかりません。
感覚が違うんですかね?

by しょうじ (2011-03-19 06:55) 

かわばち

同意。
マスゴミは事実だけを流してくれればいいんです。
下手に他局より抜きん出ようとするから、おかしくなるのです。
アドバイスにならないアドバイスを暖かい局内で読み上げたり、会見にいちいち揚げ足取りしたり。
一番邪魔しているようにしか見えませんな。
by かわばち (2011-03-19 09:13) 

kou

病院や施設の業務って普段でも大変なのに、この体制で関係者の皆さんは言葉では表せないくらいのご苦労をされたと考えられます。

マスコミはインパクトのある一部の表現を繰り返し報道し、その前後はカットしますから事実が正確に伝わらない。

しかし、礼儀を知らない馬鹿な記者が多いですね・・・。


by kou (2011-03-20 13:43) 

ryang

>しょうじさん
本当に、NHKともあろうものがイギリスゴシップ誌のような捻じ曲げぶりでいいんですかね。誰も受信料払わなくなりますよね。

>かわばちさん
マスコミは、なんの存在価値があるんでしょうかね。追い掛け回してつるし上げて、そういうことはプライベートを切り売りする芸の無い芸能人にでもやっておけばいいのに
。地デジにしてまでテレビつける価値あるのかなと思ってしまいます。

>kouさん
そう、そうなんですよ!石原都知事の話にしても、今回の院長の話にしても、その前後をカットしてしまってつなぎ合わせるからおかしなことになるんです。あれじゃ真意は伝わらないし、ただの情報操作でしかありませんよね。
by ryang (2011-03-20 21:16) 

すぎ

私も看護師です。お気持ち、共感します。 北関東の病院勤務中、東日本大震災が発生しました。 私の勤務地では建物やライフラインの被害はなかったものの余震は続いていました。夜勤のときは、「夜勤看護師2人で、患者40人(うち寝たきりの方20人)をどうやって避難させようか」と不安を感じました。病院では日頃から、避難訓練をしており、患者を、車イスや毛布を使って移動させたり背負って避難する練習はしています。緊急時には職員寮に住む職員も応援に駆けつけることにもなっています。けれど、限られた人手で全員避難させるということは、大変なことです。もちろん、全員を助けるべく最大の努力をします。 東日本大震災では、放射能からの避難、津波など、想定外の被害、被害の大きさだったのだと思います。 水も物資も少ない中、少ないスタッフで大勢の方の食事や排泄の世話をするということは大変なことだと思います。尽力された医療スタッフの方、自衛隊の方は、素晴らしいと思います。
by すぎ (2014-03-11 13:23) 

ryang

すぎさん
コメントありがとうございます。
うちも、人工呼吸器を使っている人やや自力で動けない人を
どうやって動かすか? 限られた時間と動かないエレベーターで、
現実的に全員、というのは無理ではないか… 
連絡手段が無く、情報が錯綜する中で正しい情報も分からず
人や物資の応援を要請し、それが通るかどうかも…
そのときに問われる責任を考えると、ゾッとします。
その時が来たとき、それが最善の判断だったかどうかは
結果論でしかないのに、時間の経過でわかったことを
振りかざして責め立てられ、報道の暴力を受ける。
やりきれません。
by ryang (2014-03-11 21:12) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1