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救急隊と病院と [しごと]

本日のエントリはちょっと書くのに悩みます。
所詮は文字だし、読み方によっては誤解を招く
表現にとられかねないからなぁ、と思ったのだけど
日本の医療について思うところがぽろぽろとあったので
珍しくまじめに。

JPTEC てご存知ですか。

JPTECガイドブック

JPTECガイドブック

  • 作者: JPTEC協議会
  • 出版社/メーカー: へるす出版
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 大型本

一般の方はほとんどご存知ではないと思います。
JPTEC by Wikipedia 
で、大まかな内容は上記参照としてもらうとして…

今度、この講習会に参加することにしたのだけど
今日は夜勤明けでそのプレ講習に参加してきました。
オリエンテーションを含みながら、どういうアルゴリズムかを
理解するというもの。

ICLSとかACLSとか、BLSとか、なんでもそうだけど
「あっ、助けなきゃ」っていう事態に遭遇した時に
「何をすればいいのかわからない」ということだと
究極が「ヘタに動かして責任問われてもイヤだしー」とか言って
救命できないことになってしまうから、
「どういうことをチェックしながらどこまでできればヨシ」という
疑わしい何か、に沿ったアルゴリズムを理解しておくことは
必要なわけです。

(皆さんも、運転免許取るときなんかに救命処置の云々で
BLSの講習時間があったと思います。
もし、「自分の時は昔だったから無かった。」とか
「忘れた。」とかいう人は是非、
一般人向けのBLS講習会みたいのに
参加されると良いと思います。)

何をすれば良いか。
常に新しい知識・技術の獲得と更新が必要です。


それで、今回私はJPTECに参加するわけだけど
今日のプレ講習で思ったのは

「救急隊は熱い」ってことと
「救急隊の熱と病院の熱とは種類が違う」ってこと。

なんていうか
平たく言えば救急隊のスキルはすごい。
病院とどっちがどう、とかじゃなくて
それぞれ、病院に到着する前と到着した後、
我々と似てるけど違うことをやっている。
って、私は今日改めて知ったわけです。

ココは特に誤解をしないでちゃんと解読してほしいのだけど、
重症だけど死にそうにない患者」が
救急車で搬送されてくるとき患者の状態が
「情報と違う」とか「事実ではない」ことがちょくちょくあって
「そういうことならウチじゃない方が良かったんじゃないの。」
っていうのとか、結果的に「嘘ついてねじ込んできた」
ということになるのはよくある、とういうのが現状。

でも、来院時にすでに心肺停止とか高エネルギー外傷とか言うと
詳しい情報は後で。という前提で引き受けるわけです。

で、今日のJPTECでは、患者さんの脊髄損傷に注意しつつ
外傷性ショックの患者さんを速やかに救急車内に収容しましたっ。
そこまで。

すげーなー救急隊。
っていう、訓練と実践のたまものだった。

で、本題なのだけど
ここから、救急隊長が「〇〇救急隊です!」とHOT LINEていう
特殊な電話に情報を回してくるわけです。

前に救急車のたらい回しのエントリで書いたけど
医師は「専門の診療科が決まっている」わけです。

つまり、心血管センターで心筋梗塞のスペシャリストの先生に
「外傷の受け入れお願いします!!」と言われても
対応ができなくて困るわけです。

逆に、外傷が得意な先生が当直をやっているときに
「心筋梗塞の疑いです!!」と言われても、対応ができなくて困るわけです。

せっかく1分1秒を争って安全に迅速に車内収容して
「あとは急変しないように観察しながら搬送するだけ」なのに
搬送の受け入れ先を探すのに時間が掛かったらすごくもったいない。

また、受け入れを断った病院が次の受け入れ先を当たるという
訳の分からないシステムを導入した自治体があったけど
そんなことしてるほど病院は暇じゃない。

つまり、救急隊も病院も、お互い「それぞれ忙しい」。
のに、たぶん、行政の偉い人はそれに気づいていない。
のか、気づかないふりをしてるのか、気づこうともしていないのか。


それに、当直の医師だって「バイタルは?」「家族と連絡ついてるの?」
「かかりつけは?」って「そんなこと聞いてる暇があったら
搬送しながらにさせてくれー」ってことを聞いてくるわけです。

それを思ったら、大変だよなーと思って、
「iPadなんかを使って、情報のやり取りをしながら
受け入れ先を迅速に選定するシステムなんかは導入されないのか」と
質問をしてみたら、一人の隊長(と思う)が言ってたのが

「我々は、先生がどの科が得意であるかを把握しているんですよ。
だから、今日はこの先生がいるからココの病院にはこういう例を
当たろう、って分かるんです。普段から繋がりを持っておくことも
必要です。そこは救急隊長の腕の見せ所なんです。」

…半分わかるけど、半分わからなかった。(半分はわかるよ。)

分からなかった半分は「アナログすぎる。」って思ったから。

「こういう講習会や検討会などで繋がっておくと
やっぱり違いますよね。」

これも半分だけ理解した。

隊長。
アナログすぎる。ていうのと、現場各論すぎる。

それじゃ、救急隊は「よっしゃー迅速に決まったぜ、さすが俺。」
って言うのとか「ちぇっ、なんだよこれでもう5件目だよー。」
っていうのとか、
その日の各病院の当直医師と救急隊の関係性によって、
アタリハズレがあることを前提にコンサルトしている、
ってことじゃないのか??

肝心の患者の満足度はどこに行ったのか、ちょっとよくわからない。

そこは、医師の細分化された高い専門性が役立つよ!
ってところを最大に生かすシステムを作らないと
救急隊に依存してていいことではないんじゃないか。と思ったわけです。
そこは国が取り組むべき問題ではないのか。と。
(もしかしてもう取り組んでるのかもしれないけど
全然現場には降りてきてない)

でも、隊長は自分たちの努力とか、その辺りの話をしてた。
その努力は嘘がなくて良いと思うのだけど、その熱意だけでは
解決できる問題ではない。ってことなんだけど…

救急隊の熱意があれば、医師との繋がりを持って
得意分野を把握して、うまく渡り合うことで迅速に搬送できる。
っていう路線で、私の言った質問は
意味そのものがあんまり分かってもらえなかった感じ。

消防隊員が、休日を使って
消火栓の位置とか使える道路を確認して
「自分の地図」を作る、っていう話は聞いたことがある。
これは、消火栓の位置も道路もそうそう変わらないし
「そこにある」という答えが分かってるから良いと思う。

けど、病院の職員人間だし、その人間が診てる患者もまた人間。
外傷が得意な医師が病棟で入院患者の急変対応で
蘇生・救命処置をしていたら、やっぱり「今は受けられない」
ってことだってあって、それは消防で言うなら
「あったはずの消火栓が無くなってた」って状況が
常にあるわけで、そうしたら消防と同じことをやってても
すでに限界が見えてるわけです。

って思ったら、現場のスタッフに他の消火栓探しをさせるのは
無理があって、そうすると「消火栓無いから消火器でもいいや」
ってとりあえず運んで、病院の医師から
「情報と違う!!」って怒られたりする。
というズレが生じるんじゃないのかなぁ。

え、結局患者の満足度は? 

置いてきぼり。
(満足度って「〇〇救急に運んでもらって良かった♪」とか
「〇〇病院に運ばれて良かったわー♪」ってことじゃなくて
その患者に対して適切な医療の連鎖で回復に繋がった、って意味ね。)

病院の医師も、救急医療の研修に参加して
救急医療を担うものとしての知識・スキルを身に着けておくことも
とっても大事。
(きっと「期間限定だから」っていうお留守番救急の体制の病院は
すごく多いと思う。救急医って幅が広すぎるから、
科として成り立たせるのはすごく難しい話だ。)

そして、各自治体の救急指令センターか国かわからないけど、
とにかく国レベルで、救急隊の個人(その隊組織)の努力だけでなく
迅速な受け入れができるだけのシステムを構築する
必要があるのではないか。と。

医師も看護師も、病院側は病院側で
それぞれの専門性の中での研鑽をしている。
それは、病院に来る前のスペシャリストの救急隊の研鑽とは
まただいぶ違ってる。

つまり、「それぞれの専門家が」やるべきことについて特化する余り
「運ばれてくる患者についての共通するイメージがない」
ということで、そこが埋まってない溝としてあるのではないか
と思うのです。

現場でカタをつけることも並行してやっていくことではあるけど
それだけでは絶対に無理があるよなぁ。と思ったわけです。

うーん。

とりあえず今度はこのプレの本番が
丸々1日がかりであるので、勉強してこよう。

たがだが2時間のプレ講習だったのに、膝が痛い…。




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コメント 12

yes_hama

(コ・・・、コメント、難しいな。^^;)
人間の因果関係までなかなかデータベース化できないので、
システム構築も遅れ気味になっているのかなあ。
都会なら救急体制が万全に整っていると思っていましたが、医師の多いことが逆に難しくしているのでしょうか。。。
by yes_hama (2014-09-07 20:59) 

cassis

「普段から繋がりを持っておくことも
必要です。そこは救急隊長の腕の見せ所なんです」

個人スキルの冴えを称える褒め言葉かと思いますが
「職人」の仕事は 時に情報の囲い込みを生みます。
コレが危険だってコトは 医療の世界に限らず
常々思うところであります。
明文化、オープン化、マニュアル化、単純化
場合によって陳腐に聴こえるこれらの単語もあるいは
現状を的確に照らしてくれる力を持つと考えます。

しかしながら
そのように一旦構築されてしまった『巣窟』を壊していくのは
歴史の浅いビジネスならでは比較的容易でも
時間を争う尖った現場やピンポイントの場面では長く培われるほどに強固な「壁」です。
1つずつ解いていく作業から一貫性を持ったシステムを新たに構築するまでの道のりの長さ、権力の介入とそのタイミング等 課題山積かと推察されます。
患者というひとつの課題を多方面スキルから見る
この「まな板」 に載せるまでの果てしなく遠い道のり、察するに余りありますが
だからと云ってそれは誰もがやらない理由にはならない、…(おっと 個人的述懐に)

非常に強く興味を持って今回の記事を拝見しました。
次回のご報告、楽しみにしております。
(長々とスミマセン)
by cassis (2014-09-07 21:24) 

ryang

yes_hamaさん
ありがとうございます。
救急体制は、万全と言えるところはあるかどうか…
専門性の高いスキルを持った医師が救急車の対応を
する科に属しているか、または救急の科からのコンサルトに
対応できるだけの状況かどうか、というところで
受け入れの可否は分かれます。
それこそ、「専門の先生が最初から診てれば」なんて
言われたら、と現場は委縮します。
最たるものは産科が良い例です。

医療が高度化して技術が発達した分、「なんでも屋」では
専門の高度なスキルは身に付きません。
また、正直どうでもよすぎる「2週間前からの発熱・歩行可能」
などという救急車の受け入れ要請も少なくありません。

いろいろ整理されないままゴチャゴチャすぎるのだと思います。

適正利用の呼びかけしかり、健康管理しかり、国民が
それを理解してるか?と言ったら、「理解してない」ですよね。
厚生労働省のHPに書いたところで誰も見ないっつーの。
と思ったら、もはや根幹には行政も医療機関も国民も
「自分のことばかり」という側面もあるように思います。
きっと行政の偉い人は自分がVIPだから、何も困ってない。
建前で通達を出しておけば、お手当が欲しい医療機関が
建前の協力をしてくれてる。それで十分。
なのかもしれません。一般の国民はどうなるのか。と。
しかしその国民は、自分の健康や生き方について、
寿命について、どれだけ考えているのか。ったら考えてない。
自分の親が死ぬなんて考えてもない。
老いていく親を見送ってる立場とも思っていないから
老親の死が「突然すぎて受け入れができない」。

鶏が先か卵が先か。

もっと、世の中全体の問題として考えた方が良い。と
ブツブツ思った次第であります。
by ryang (2014-09-07 21:30) 

ryang

cassisさん
ありがとうございます。
珍しく真面目に書きました(笑。

そうなんです。「俺らだけでも頑張るぜ」という
熱い熱意を感じたのですが、あまりにも「俺らだけ」な
感じがして、そこを現場だけで支えようとするのは
無理があるよなぁと思いました。
すごいことやってるんです、救急隊。でもそれは
「迅速に病院に運ぶための技術」であって、各医療機関に
救急のスキルを専門的に身に着けた医師が複数名でも、
または潤沢に、当直しているかどうかと言ったら、
全然そんなことありません。
専門的には医療技術は特化しましたが、細分化された分
専門のことは長けていてもそれ以外のことは当然弱いわけです。
でも、HOT LINEで当直をやるからには、それなりに
対応をしなくてはいけない。医療機関も疲弊しているわけです。
それを、もっと医療の「一連として」俯瞰して見ることで
その専門性の応じたシステムを構築していくことで
パズルのピースがピタピタとはまるように、スムーズに
解決していくのではないか?と思いました。
なんか、ピースが全部グッチャグチャで
「ちょっと違うけど無理やり当てはめてみました」
なのが今のシステム(?)のように思いました。

次回は、10時間ぐらいかけてこのJPTECのスキルの獲得なので
体力がもつかどうか…という心配が(爆。
by ryang (2014-09-07 21:47) 

Chobi.H.YAOITA

人の話ではないんですが
商業活動の物流の無駄を改善する「ロジティクス」と呼ばれる考え方があります

ロジスティクスは元は軍事用語です
前線で戦う兵士に必要な物資を適宜、適量供給する後方支援活動のことです
この考え方が商業活動用に応用されています

1・いま現場で何がどれだけ必要かわかる体制になっているのか
2・現場の必要量に合わせた生産体制になっているのか
3・適切な時、適切な場所に運ぶ体制はできているのか

この3点がわかっていないと無駄な運送費と時期遅れの在庫ばかり出るので
それを改善するのが、外部の人間で「物流技術管理士」というお仕事なのだそうです
医療にも「搬送技術管理士」という技能職ができるといいですね ^^;
by Chobi.H.YAOITA (2014-09-08 14:40) 

ryang

Chobi.H.YAOITAさん
そうですねぇ
たぶん、あまりにもココまで、ていうのが
別れすぎてるんだと思います。救命救急士さんは
病院に着いてからの疾患に対することは、見てる分には
知識は習得していなさそうです。逆に医師は救急車の
要請があった段階での少ない時間と情報では、
「それじゃわからない」なわけです。
お互いが被ってないというか...

大きな外傷などは、外傷センターなどの設備を
整えることで前進しますが、問題は「そこまででは無い」
という患者です。しかし、やはり刻々と変化する
患者を前に、搬送先が決まらないというのは
救急隊だって現場でのジレンマがあるかと思います。

救急隊は観察したことをそのまま正確に伝える。
救急対応する医師は、一定のガイドラインを基に
キャパが許す限り受ける。その補助として、搬送先の
リアルタイムなリストをデータとして通信するだけで
随分と時間と対応が短縮されるんじゃないかなぁと
思います。まさに、1から3ですよね。
だがしかし‼︎ まずは健康管理と安全管理を
国民ができる限りしっかりしてくれぇー、
ということが大前提ではあるわけですが(^^;
by ryang (2014-09-08 23:04) 

いくそむ

病院は細分化、専門家、になりすぎて、ジェネラル?な人っていうんですかねぇ??がいなくなっちゃったんじゃないかと私も思う、今日この頃です。
by いくそむ (2014-09-09 23:18) 

ryang

いくそむさん
そうですね、医療が発達した分、発達した知識や技術を
持つ者は、それぞれの分野のスペシャリストになります。
救急という分野でそのスペシャリストの集団を
部門として作るのはとても難しいです。
やはりある程度大きな施設で人を確保して、となりますが
そのレベルを維持できるのは、ごく少数の施設であり
その他はスペシャリストの継ぎ接ぎで、なんとか
間に合わせているのが現状です。

寿命もスペシャルに延びましたし、医療へのニーズも
多岐に渡り、そして高い時代です。
高度経済成長も終わり、生きてて当然の生きる前提の話から
そろそろ、死ぬ前提でどうやって生きていくか
考えることが必要、とも思います。
by ryang (2014-09-10 01:31) 

のらん

なるほどねー。たしかに、まだまだアナログ過ぎるのかも(^_^;
私は、なんとなく病院探しはコールセンターみたいなところがやってて、救急車はその指示で動く・・・みたいなシステムを想像してたんだけど、救急車が自分でやるのね〜。。。
by のらん (2014-09-13 12:52) 

よいこ

最近、女子バレーが強くなっていますが、その躍進のもとは、監督の腕に装着したPCパッドで、データーをその場で入力しながらの指示もあるそううな。
救急隊は命を運んでいらっしゃるのだから、ツケモノさんがおっしゃるように、アナログ名部分と最先端の部分を、もっとハイブリッドにミックスできるといいのにね。
たらい回してなくなる方が、時々記事になりますね
それ、自分のばんにならないとも限りませんもの
by よいこ (2014-09-13 14:48) 

ryang

のらんさん
そうなんですよねー。
心肺停止なんかだと、指令センターのお当番の指導医が
「〇〇病院行ってください」とか言って指令を出して
当たられた病院は基本的に断ってはいけない、という約束が
あるのです。ですが、そこそこ重症だけど心肺停止ではない。
という場合は、救急隊が直接病院に当たります。
もうちょっと効率良いやり方ないかなー。と思いました。
by ryang (2014-09-13 21:50) 

ryang

よいこさん
そうですね、さすがの職人技にシステムが加われば
鬼に金棒ではないか?と思います。
たらい回しの回でも書きましたが、高度な医療によって
助かる人が増えた。というだけであって、みんなが
助かるようになった。というわけではありません。
生活をちゃんとするとか予防をするとか、健康管理をするとか
それは国民が怠ってはいけない話ではあります。
誰が悪い、ではなく、命は「代わってあげる」が
できないわけです。生きてて当たり前の話ではなく
生きているからには遅かれ早かれ死ぬわけですから
「どうやって生きるか」を真剣に考えていかないと
おかしなことになっていきますね。
その中で、使えるものを最大限に利用して、少ない資源で
効率よく助かる人を増やしていくというのができると
いいかなぁと思いました。
by ryang (2014-09-13 22:01) 

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